横山町奉仕会会長 西沢 郷

 横山町で仕入れていただいている全国の小売店様、商品をご提供いただいているお取引先様、隣接の友好団体や関係諸官庁の皆様、そして横山町奉仕会加盟各社の皆様に、謹んで新年のご祝辞を申し上げます。旧年中は横山町奉仕会並びに会員商社に格別のご支援、ご愛顧を賜り、誠にありがとうございました。

 また、能登半島地震に次いで、洪水被害に遭われた石川県の皆様に心よりお見舞い申し上げますと共に、今年が復興に向けて大いに前進する1年となることを祈っております。

まだまだ懸念される景気の停滞

 昨年141円台で始まった対ドル為替レートは7月には一時160円台まで円安が進み、概ね150円台で推移しました。エネルギーや原材料の価格高騰によって物価が上昇した一年でした。消費者物価指数は2020年を100して24年10月段階では109・5と10ポイント近く上昇しています。24年1年間の値上げ累積品目数は1万2250品目にも上り、年間の平均値上げ率は17%にも及びました。一方で生活者の実質賃金は5月まで26カ月連続のマイナスで、ボーナスの押し上げで6、7月はプラスに転じたものの8月以降は再びマイナスになりました。 今年も物価の上昇傾向が続くことを懸念しています。1月にはパン製品の一斉値上げを始めとして約1千品目の値上げが予定されており、人々の生活を直撃していくでしょう。物価高の背景にはエネルギーや原材料費、円安のほか、物流費の高止まりや人件費の上昇などがあり、今年もこうした傾向が強くなっていくと思われます。

 世界に目を転じると、ウクライナとロシアの戦争は膠着状態に入っている様相です。イスラエルとハマスの戦争状態が拡大し、ガザ地区での人権問題が深刻です。イスラエルとイランとの関係も悪化しています。中東での紛争が拡大していけば原油価格の変動などが懸念されます。

 アメリカでは1月20日に、ドナルド・トランプ氏が大統領に就任します。中国に対しては厳しい関税を課すとされ、各国に対しても関税をちらつかせています。メキシコとカナダに25%の関税を課すと報道されましたが、両国共に日本の自動車関連工場があり、課税されれば日本の大黒柱である自動車産業が打撃を受ける可能性もあります。そのほかの輸出産業にも影響が及ぶことが考えられます。中国は不動産業の崩壊に端を発した経済的に苦境に立たされています。アメリカとの関係が良くならない中で、中国の縫製工場などはミャンマーやベトナムに移転するケースも見られます。これらの動きが日本経済、とりわけ消費動向にどのような影響を与えていくのかを注視していく必要があります。

加盟商社は専門店の伴走者

 ここ数年、「従来の商売のやり方では通用しなくなっている」と、実感されている方は多いのではないでしょうか。

 地球温暖化に伴って、日本の気候は変化してきました。5月の初めには夏日を記録し、猛暑の後は11月に入ってもなかなか気温が下がらず、冬物商戦に苦戦しました。春と秋が短く、夏が長い気象状況で、大手アパレルでは四季ではなく「五季」で商品MDを組む企業が出てきました。日本らしい四季に合わせた商品展開の見直しを余儀なくされている状況です。

 一方で、生活者は生活防衛意識が強くなっています。可処分所得が伸びず、光熱費や食料品以外の支出を絞っています。ファッション衣料はその影響を大きく受けることになります。私たちファッション衣料を扱う商社には今まで以上に危機感が漂っています。いかにお客様の購買意欲を喚起する品揃えができるか。専門店の皆様の店頭で活発に動く商品をいかにご提供できるか。そしてお客様である専門店の皆様に利益を上げていただく商品とサービスをご提供することができるか。その責任がますます重くなっていることを痛感しています。

 そのポイントの一つが、専門店の顧客層の幅を広げていくお手伝いをすることだと思っています。高齢者に向けた商品だけでは顧客層は広がりません。今の60代はユニクロやGUなどでも衣料を購入します。「自店の顧客には若すぎる」という固定概念を取り払い、今までにない商品にトライしていく勇気が必要です。そして洋服だけではなく、帽子やアクセサリーといったコーディネートアイテムも店頭に取り入れていくといった変化が求められていると思います。

 そうしたチャレンジに向けては、私たち問屋街の力を頼りにしていただきたい。横山町奉仕会加盟商社には全国の専門店が仕入れに訪れます。日々、商品の動きを見て、感じて、そして今の時代の空気感で支持されている商品を皆様にお薦めすることができます。

 東京で仕入れることで流行や売れ筋商品がわかります。商社と共にチャレンジし、そして走りながら修正を加えていく。ときには専門店の皆様が望む商品を開発する別注にもお応えしていく。私たち商社は専門店の皆様の伴走者として、皆様のご商売を成長させる商品とサービスの機能を強化してまいります。

新しいビジネスモデルの創出

 横山町・馬喰町は日本でも有数の問屋街であると自負しています。しかし、全国的な知名度はまだまだ高くはないと思います。関西や中国、九州の専門店の皆様に東京の問屋街を知ってもらい、流行の先端にある東京に仕入れに訪れていただく努力をしてまいります。それには各商社が商品力を磨き、発信力を高めていくことが重要です。それぞれに個性のある商社が集積しているのが横山町・馬喰町問屋街の大きな特徴です。横山町奉仕会として問屋街の優位性と唯一性を積極的にアピールしていきたい。日本一の問屋街へと成長していくことで、海外のバイヤーが仕入れに訪れる問屋街にしていきたいと考えています。そのための活動に積極的に取り組んでいます。

 横山町奉仕会は東京問屋連盟と協力し、問屋街の今以上の繁栄を目指し、「問屋街活性化委員会」(三上明夫会長)を組織してさまざまな取り組みを行っています。昨年11月は文化服装学院との協業で「BUNKAファッション・オープンカレッジ」を開催し、気候変動や人口減少、今後の問屋街のあるべき姿などを学びました。12月には明治大学経営学部の岡田浩一教授による「企業成長に向けて課題解決のためのワークショップ」を開き、加盟商社の多くの人が参加しました。

 同委員会によって設立された「横山町馬喰町街づくり株式会社」(宮入正英社長)は今、YYパーク横に日本橋問屋街の地域連携型の店舗とインキュベーションオフィスの複合施設「NTプレイス」(仮称)の建築を進めています。問屋街で事業承継にお悩みの企業に新たなビジネスモデルを提案するもので、今年4月に完成予定です。

 事業継続が困難な場合、その不動産を売却するのではなく、店舗やオフィスがテナントとして入居できる施設へと改修、または新たに建設することで収入を確保するというものです。日本は人口減が大きな課題です。特に地方からの人口流出は深刻です。人口が増加している東京にあっても事業者が減少するという現象が起きています。魅力ある商店、カフェ、ブティックがあれば若い人たちが集まり、街全体が活性化していきます。横山町を訪れた際には実際に見学していただき、自店の参考にしていただきたいと考えています。

共に次代へのバトンをつなぐ

 昨年は横山町奉仕会各社で使用できるyhカードが40周年を迎え、Orico(オリコ様にご協力いただき、10月から12月にかけて、「yhカード40周年記念売出し」を開催しました。多くのお客様にご利用いただき感謝申し上げます。更なるご愛顧を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

 まだクレジットカードが普及していない時代、横山町奉仕会は地域の問屋で使えるyhカードをどの地域よりも早く導入しました。奉仕会に加盟していることは「信頼できる問屋である」ことの証しです。専門店様に安心して仕入れていただける環境を整えてきました。

 横山町は330年の歴史を持つ商業街です。問屋各社は時代に合わせて、人に合わせて柔軟に扱う商品を変え、商売のやり方を進化させてきました。それが問屋の生きる道であり、奉仕会がそのバックアップをしていく。奉仕会の果たす役割は、今後も大きくなっていくと考えています。

 制度や商習慣の変化に加えて、専門店の在り方、店頭を訪れるお客様の志向も大きく変わりつつあります。専門店の皆様の中には代替わりをして、若い店主が横山町に仕入れに訪れるケースが増えてきました。地域のお客様に合わせて、仕入れる商品が変わってきています。専門店の皆様にとって、地域のお客様が何を望み、何を求めているのかを知ることが何よりも大事なのだと思い知らされます。

 変化のスピードが速い時代、これからも皆様のご商売に貢献するために、1社ではできない課題に対して横山町奉仕会が一つの力となって取り組んでいきたいと考えています。専門店の皆様を全力でサポートしていきたいと思っています。共に手を携えて、難しい時代、厳しい環境を乗り越えて、次代へとバトンを渡していきましょう。